石印材の蒐集
石印材の手入れ


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訪れてくださった方が一番多い頁です。修正・加筆しました。
篆刻家の方からメールでお褒めの言葉をいただきました。


「手沢」と「油養」という二つの言葉があります。

「手沢」は石印材を手で玩んで手の脂をつけるとともに石の表面を滑らかにすることです。非常に重要なことで、これを経てきた古い材は味わい深いものとなります。

「油養」は石に積極的に油を補給し乾燥から防ぐものです。きれいな布きれか脱脂綿に油を少量とり、石印材表面に薄く塗るだけです。

「手沢」と「油養」を繰り返すうち石は育っていきます。





○手沢について

見た目の艶と手触りで石を選ぶことは非常に重要です。その試験に合格したものを私は手に入れることにしています。石を手に入れるとまずするのが手沢です。手沢をしながら石と対話をします。石の密度、彫りやすさ、均質性までわかります。私がよくするのが鼻の脂をつけて手沢することです。

手触り

青田石:全体的に硝子質といってよい。古材は特に手触りがよい。指紋が石に吸い付く感じがする。
昌化石:鶏血しか知らないので良くわからない。ただし、鶏血には、硝子質のものと荒れた感じのものがある。
寿山石:古材はしっとりとしている。新材もしくは巴林石は見た目に古材よりおとる。
田黄系:最上の肌理を示す。
高山系:凍石、晶石は硝子質。
芙蓉系:場合によっては、ねっとりとした感じを受ける。




○油養について


油養に使用する油ですが、純粋な椿油が良いようです。
化粧用の油、整髪料、ベビーオイルも避けたほうがよいです。機械油については論外です。
なぜ人間に使える合成油がいけないのでしょう。それはアルコールや香りを放つ揮発成分を含むからです。これが変色、脱色を招きます。


蒐集の最初のころ白芙蓉の良材を求めてベビーオイルを塗ったことがあります。翌朝見てみると、どうも色が違うのです。アイボリーというか黄変していました。
これが油のせいだと気づくまでだいぶかかりました。なぜなら他にベビーオイルに耐える材があったので解らなかったのです。

ベビーオイルで脱色も起こります。特に凍石に鮮やかな色が浮かんだ石は肝心の色の部分が抜けてしまいます。

極端ですが、この白芙蓉の印面に少しシンナーを塗ってみたところ見事に黒変しました。
黄変が火傷なら黒変は大火傷にあたります。
例えばラベル等が貼ってある石印材を求めてラベルを剥がして糊が残ったとき、それをうっかりシンナーで拭いたら、まず変色するか裂が入るでしょう。

手に入れた石印材が乾燥してからからになっている場合、目で見て潤いが無い場合が、最も注意を要します。古材に多いです。いきなり、揮発成分を含む油を塗るとまず裂が入ります。
これは、体験していることですが、ベビーオイルを古材に塗って5分したら石からピシッと音がしました。見てみるともののみごとにヒビが入っています。もう一顆は表層が薄利するがごとく裂が入りました。
いったん裂がはいれば、それは直りません。より深く進行するだけです。

なぜ、こんなことが起こるのでしょう。

多分、揮発成分は分子量が小さいため素早く石に浸みて行き、表層は急激に膨らみ内部との膨張の差に耐えきれず裂が入るのだと思います。あるいは、一度浸みてから揮発するときに起こるのかも知れません。石印材は人間の皮膚よりデリケートです。

注意していただきたいのが急激な温度変化です。

冬に多めに油を塗って暖房を切ったことがあります。15分後ピシッという音。内部に裂が入りました。慌てて油を拭き取り印箱の中へ仕舞いました。手入れを途中にして目を離したりしないで印箱にきちんと仕舞うのが最も安全です。


油養するときは、最初は印面に試し塗りをしたほうがよいです。
ただ、鶏血だけは手沢、油養は止めましょう。変色の原因となります。
油養する必要があるもの、必要がないもの、してはいけないのの区別は石をよく触り観察すれば解ります。
油養は手沢の手の油や鼻の脂を補うものと考えます。大量につけることは止めましょう。。

純椿油については二種類試しました。比較的さらさらのものと、べとつくものです。
どちらがよいのかよくわかりません。油養に最適な油があればお教え願えませんか。





○研磨について

印体の研磨は基本的にしないほうがよいです。

もし行う場合は金属磨きピカールや時計用金属磨きアモールなど砥粒を油に分散させたものは用いないほうがよいです。砥粒は金属酸化物のかなり緻密な結晶です。石印材よりずっと硬いです。砥粒が石印材表面にめり込み表面がかえってざらざらになってしまうことがあります。これも失敗するまでわかりませんでした。こうなると自然に落ちるのを期待するか、またベーパーでこすり落とさなければならないという悲劇になります。

鶏血の新材をつや出ししようと思いアモールで磨いたことがありますが、赤が脱色し地の色になりました。上で述べた油での脱色です。


買ってから印体を研磨しなければならない石は敬遠したほうがよいのではと思います。





○洗浄について

洗浄は石印材に致命的なダメージを与えることがあります。もし洗浄するときは、ご自分の責任で行ってください。

乾燥がうかがわれる古印材を手に入れたとしましょう。その材は手沢により汚れがかなり付着し凹部は茶色になっているでしょう。どうやって手入れしましょう。

私の石印材洗浄法を紹介いたします。
基本的考えとして最初に汚れを浮き出させます。これにより洗浄時間が短くなります。

−1−

手沢を繰り返します、鼻の脂をつけます。表面に皮膜をつくります。これがポイントです。
いきなり椿油はやめましょう。

−2−

少量ずつ椿油を塗りこみます。様子を見ながらです。このとき擦るともう茶色の液がでてきます。

−3−

脱脂綿に多めに油を染みこませ入り組んだ汚れの部分に塗り、さらに汚れを浮き出させます。歯ブラシで少しこすってやるとさらによいです。歯ブラシは毛先が開いていないもので腰があるものが良いです。
30分くらい放っておきます。

ここで止めて油をぬぐい取ってもかなりきれいになると思います。

−4−

いよいよ洗浄です。蛇口からぬるま湯を流し、歯ブラシ、泡立ちの良いハンドソープを使います。泡立たせて歯ブラシで細かい部分の汚れを落として行きます。このとき、腰のないブラシを使うと毛先が隙間にきちんと入らず汚れをかきだしてくれません。なるべくチャッチャとブラシをあて手早く洗います。奥の汚れは後にして、水洗いを良く行い吸水性のよい古いバスタオルでふきあげます。石を落として割ったりしないように。

−5−

細かい部分の水をさらに脱脂綿でとります。ヒーターであぶったり熱風をあてないこと。最悪割れます。半乾きになったら椿油をすり込んでいきます。しみこんだ水と椿油を置換させるのです。

−6−

ここまでくれば一安心です。細かい奥の部分は、つまようじ、さらに気になればまち針で軽くほじって汚れを落とします。

−7−

完成です。ぴかぴかの材ができます。凹凸がわからなくなり汚れのとりすぎという気がするときもあります。自分の手沢で育てましょう。

石によっても乾燥具合によっても差があります。また、あくまで私の石印材洗浄法なので参考にする程度にしてください。もし行うときは惜しくない石であらかじめ練習すると良いと思います。